蜃気楼

事もなげに、架妥は言った。



多々良はまた少し、苦しい気分になった。



……なーんか、彼女のほうが僕よりも厳しい状況下で生きてきたんだよなぁ。



歳はそう変わらないはずなのに、生きる環境はあまりにも違う。



ついていけるのかな。



「多々良。」



急に名前を呼ばれて立ち止ると、架妥が心配そうな視線を寄越していた。



無言で大丈夫かと問われ、多々良は微笑んだ。



「ごめん、ちょっと考え事してた。」


「今日は帰るか?
もう、たくさん覚えただろう。」



今日はこのくらいで、と言う架妥に甘えて、多々良は山を下りることにした。



これ以上教わっても、頭に入って来ないだろう。



それではやる意味がないし、失礼だ。



「まさか、捕まったときはこんなことになるだなんて思いもしなかったなぁ。」



多々良がぽつりと言うと、架妥は薄く笑った。



「あたしもだ。
まさか、都楼が殺さずに取っておく人材だなんて思いもしなかった。」


「…なにぞっとすること言ってくれてんの。」


「事実だ。」


「今まで何人殺されたのか、知るのも怖い。」


「数えてないから、わからないぞ。」



律儀に答えを返してくれるのはありがたいんだけど、それって結構怖いことだよね架妥!?