蜃気楼

気持ちいい…。



さわさわという、木々の擦れる音が心地よい。



多々良は少しの間そうしていたが、ゆっくりと目を開けた。



思わず、悲鳴を上げる。



…空から、突然なにかが降ってきた。



それは軽やかな音を立てて着地する。



多々良は後ろに反っくり返って尻餅をついた。



ポカンとしていると、眼前に刃物。



状況を理解できない。



きょとんと多々良は銀色に光る小刀を見つめた。



「動くな。」



凛と張りつめた声。



多々良はようやく声の主に意識をやった。



「…人?」



どうやら空からやってきたそれは人間らしかった。



肩までの黒髪、膝上の着物、長い帯、小刀。



多々良は上から順に、観察した。



重い前髪の下から、爛々と光る目が、多々良を射ている。



男の子?



「立て。」



きつい口調で、彼は命令する。