蜃気楼

多々良が竈で焼いたらしいパンを頬張りながら言うと、呆れ顔で返された。



「今日も、って毎日山でしょ。」


「人の上げ足をとるな。」


「はいはい、で?」


「薬草を教えてやる。」



詳しいことは知らないが、ある程度の知識ならある。



桂月が昔教えてくれたおかげで、都楼も架妥も、医療に不便はなかった。



「本当!?」



多々良は顔を輝かせる。



「孤児院で教わったのは、ここにはあんまり生えてないみたいで、困ってたんだ。
よかったぁ、これで手当てが楽になる。」



はしゃぐ多々良をみて、悪い気はしなかった。



そんなに医学が好きなのかと、問うてみようと思ったが隣に都楼がいるのを思い出して口をつぐんだ。



さっきからまったく食事が進んでいない都楼を引っ叩いて起こし、口にものを詰め込む。



むぐむぐと苦しそうだったが、都楼はゆっくりと咀嚼した。



「もう、いい…。」



相変わらず眠そうなまま、都楼は立ち上がる。



「ちょっと見回りいってくる。
架妥、出掛けるのは俺が戻ってからにしてね。」



大丈夫かと心配だったが、飛び退った都楼はさすがの俊敏さだったので安心する。



架妥はほっと胸を撫で下ろし、後姿にいってらっしゃいと声をかけた。