蜃気楼

生意気だな、と多々良は唇を尖らせる。



やかましい、と内心罵りながら、架妥は食卓に向かった。



「おはよー。」



都楼は眠そうに目を擦っている。



「早かったんだな。」



隣に腰をおろしながら言うと、都楼は首を振った。



「俺の意思じゃないよ。
多々良がうるさくて。」


「たたき起こされたのか?」



あたしは気づかなかったな、と言うと、都楼はまた首を振った。



「包丁の音とか、洗濯の音とか、うるさかった。」



言いながら、都楼はこっくりと首を危なげに揺らしている。



そんなに眠いのなら二度寝すればいいのに。



しかし、繊細な都楼は一度目が覚めたらどんなに眠くても眠れないのだ。



多々良はそんな様子の都楼を見てさすがにバツが悪そうだったが、聞き流すことにきめたようだ。



食卓には、まだ二人だった。



ならそんなに早く起こさなくても、と抗議すると、



「リーダーが規則正しい生活をしなきゃ、示しがつかないでしょう。」



と叱られた。



今まで別になんともなかったのに、と2人揃って口を尖らせる。



「まぁ、いいや。
多々良、仕事が終わったら今日は山へ入るぞ。」