蜃気楼

「やだなぁ、なんでそういうこと言うの?
僕、颪の仲間になれたんじゃないの?」


「お前が望んだことなのか?」



架妥はまっすぐな質問を寄越す。



多々良は答えるのがつらかった。



「結果的にね。
僕には帰るところなんて、ないからね。」


「孤児院。」


「は、もう僕の家じゃない。」



自分でそう言っておきながら、胸が痛んだ。



そう、もうあそこは僕の居場所じゃない。



胸の中で、自分に言い聞かせる。



僕じゃなくて、僕よりも小さい子達の居場所。



院長様に、愛を教えてもらわなければならない、傷ついた子供たちの居場所。



僕はもう、卒業しなきゃいけないんだ。



いつまでも温かい場所で守られて生きていくなんて、無理なことなんだ。



…でも、院長の笑顔が恋しかった。



さらり、と自分の髪が掻き上げられた。



驚いて架妥を見る。



架妥は何とも言えない表情で、多々良の頭を撫でた。



「お前が出ていきたくなったらいつでも出ていけ。
でも、いたいなら、いつまででもいろ。」



突っ放したような口調に確かな優しさを感じ、多々良は泣きたくなった。