蜃気楼

諭すように言うと、架妥はきょとんと首を傾げた。



「してない?」


「うん。」


「でもお前、苦しそうな…。」



言いかけて、架妥は口をつぐんだ。



さっと前を振り向いて、歩いていく。



多々良は思い当たって頭を掻いた。



僕、そんな苦しそうな顔してたんだ。



架妥が怪我かと心配して焦るほどに。



さっきの緊張した様子を思い浮かべ、申し訳なく思った。



「架妥っ!」



なんだと振り返った顔はいつも通りの無表情だった。



さっきとえらい違いだなと思いながらも、めげずに話しかける。



「アジトからどれくらい離れてるの、ここ。」


「さぁ?
あたしの足で歩いて40分くらいだから、男の足だと30分は切るんじゃないか?」


「じゃ、僕の足では1時間かな。」



ふんふんと解釈する。



隣で架妥は呆れたように多々良を見やった。



「お前、いくらなんでも1時間は…。」


「いやいや、僕は鍛えてないんだから。
キミ達の体力が有り得ないんだよ。」


「お前のひ弱さのほうがありえない。」