多々良が想像していた山、という場所よりもここは遥かに危ない場所だった。



さっきだって、たった一歩で死にかけた。



もう少し優しい場所じゃなかったのか山。



『山はね、とてもきれいなんだよ。
紅葉の季節には、みんなで行こうか。』だなんて言った院長様は、この恐ろしさを知っていたんだろうか。



いや、知らなかったに違いない。



もし知っていたのなら、突発的に走り出す幼児たちを連れて登山しようだなんて無謀なことは考えなかったはずだ。



懐かしい光景を思い出して、多々良の頬は緩んだ。



今頃、みんなどうしているんだろう。



一緒に旅だった仲間は、もう家を見つけているんだろうか。



院長様は、ちゃんと暮せてるんだろうか。



「おい。」



呼ばれて我に返ると、架妥が不思議そうな顔で多々良を見ていた。



「大丈夫か?」


「え?」


「痛いか?
怪我でもしたか?」



珍しく、架妥が多々良の心配をしている。



たどたどしく多々良に近寄り、あちこち身体を点検した。



しかし多々良にはなんのことだかわからない。



「ね、架妥?
ちょっと待って。
怪我なんてしてないよ?」