蜃気楼




暗闇の中、多々良は目を覚ました。



どれくらい時間が経ったのだろう。



耳を澄ますと、もう雨音は聞こえなかった。



「止んだか…。」



一人ぽつりとつぶやき、多々良は腰を上げた。



長時間座っていたためか、鈍く痛む。



ごつごつとした足場に気を付けながら、多々良は洞窟を出た。



外に向かうにつれて、光が強くなる。



どうやら、一晩過ごしたらしい。



ずいぶん長い間寝ていたものだ。



重い背嚢を背負い直し、多々良は早速足を踏み出した。



雨上がりの地面が、ぐじゅぐじゅと足を飲み込む。



滑って転ばないように気をつけながら、多々良は歩を進めた。



ざあっと、風が吹く。



頭上の木々や、多々良の髪が風に舞った。



はらはらと、木の葉が舞い落ちてくる。



…綺麗だ。



春の風は少し冷たいものの、その景色は幻想的ですらある。



多々良は目を閉じて、空気を肺一杯に吸い込んだ。