蜃気楼

当の本人はきょとんとして、都楼を見上げている。



「えー?」


「えー?じゃなくて。
俺はその腕を買うことにした。」


「あ、待って、もっかい説明して?」



呉壽はあひゃひゃと笑った。



「多々良ってば、動揺してら!」


「呉壽…。」



みっともなく笑うな、と小声でたしなめると、ツボに入ってしまった彼には聞こえないらしい。



架妥はあきらめて、多々良に視線を移した。



「ここにはまともに医学を知ってる奴はいない。
お前がいると、重宝する。」


「ちょっと待ってよ、僕、捕虜でしょ?」


「昇格させてあげるよ?」


「昇格って…。」


「嫌?」



都楼は小首をかしげる。



嫌っていうか、と多々良は混乱している。



イラッとくる。



自分のことくらい、さっさと決めろ。



「おい。」



多々良は目を泳がせたまま、架妥を振り返る。



「お前はどうしたい?
あたし達の仲間になるのか、ならないのか?」


「なったら、どうする?」