蜃気楼

多々良はきっと架妥を見上げた。



「出して。」


「お前な…。」


「手当するだけだから。
すぐ、ここに戻ればいいんだろ。
そんなに僕が信用ならない?」



無理だと背を向ければ済むことだったのに、架妥はどうしてかそうしなかった。



できなかった。



多々良の目を見ると、何故か奴が嘘をついて騙そうとしているようには見えなかったからだ。


結局架妥は、言われるがままに檻を開けた。



いつもの様子からは想像も出来ない素早さで多々良はひょいっと檻を上ってくる。



「通して。」



架妥の身体は、本人の意思とは関係なく、素直に道を開けた。



一拍遅れて、架妥も多々良の後を追った。



多々良は既に、仲間に指示を飛ばしていた。



「そこ、突っ立ってないで。
薬草、すり潰すとか…え、知らない?
嘘でしょ。」



どうやら奴はちょっと医学をかじっているらしい。



てきぱきと手当を済ませてしまった。



「おい、なんであいつが出てるんだ?」



呉壽が不思議そうに首を傾げる。



架妥ははっとして叫んだ。



「あたしが出した!」


「お前が?
珍しいこともあったもんだな。」