架妥は思い出した様子の多々良を睨んで言った。



「気が散って仕方がない。」


「何、僕が気になるの?」



馬鹿か、と架妥は氷よりも冷たい目で多々良を見下ろす。



「いい気になるなよ、馬鹿め。
目を繰り抜かれたくなくば捕虜らしく大人しくしてろ。」



最高に不機嫌な声で吐き捨て、くるりと踵を返して去ってしまった。



あーあ、また怒らせちゃった。



そうは思いながらもまったく反省はしていない。



そういうところが彼女をイラつかせている原因だろうと自分でも思う。



でも、止められないんだよねぇ。



だって、面白いから。



仕事に戻った架妥は、時折こっちに視線を走らせる。



明らかに多々良を意識していた。



その証拠に、ばっちり目が合う。



多々良は余裕をかまして微笑んでやった。



遠目にもわかるくらい、架妥の顔が赤くなる。



耳朶が赤くなるのが見えた。



可愛いなぁ。



勝気な性格の人間を降伏させることほど面白いことはない。



我ながら大した性格だと思う。



が、面白くてどうも病みつきになってしまったようだ。