蜃気楼

都楼の筋肉質な腕が水面に叩きつけられる。



泳いでいる彼の顔は必死だった。



「頼む…。」



隣を走っている呉壽が絞り出すような声をだした。



何を誰に頼んでいるのか。



きっと呉壽にもわかっていないだろう。



架妥に追いついた都楼が、架妥を抱き寄せた。



多々良はほっと一息つく。



よかった、つかまった。



あとは、岸に戻ってきてくれれば…。



祈るような気持ちで走った。



波に逆らわないように、都楼は泳ぐ。



しかし、荒立っている川の流れはさすがに都楼にもきついらしい。



見ていてわかるほど、辛そうだ。



「頑張って都楼!」



多々良は無意識に叫んでいた。



頼むから、二人とも無事で…!



みんなの願いが届いたのか、都楼はやっと岸に手をかけた。



急いで男たちは二人を引き上げる。



架妥は意識を失っている。



都楼も疲労の色が濃く、ぐったりと仲間に身体を預けている。