蜃気楼

多々良は都楼に見据えられて、竦み上がった。



声が掠れてでない。



これが、都楼の迫力。



震える多々良を、そこにいないかのように無視し、都楼は呉壽を見据える。



「架妥だ!」



誰かが一声叫んだ。



ぴくりと都楼が反応する。



みんなが振り向くと、声の主は崖下の河を指さした。



「都楼、架妥が!」



ざわざわと、みんなが崖に駆け寄った。



「ホントだ、架妥だ!」



ぷかりと浮いている。



よく見えないが、背中に弓を背負っていた。



きっと、架妥だ。



都楼は表情を変え、服を脱ぎ捨てた。



そして何のためらいもなく、飛び込む。



それほど高さがなかったのが幸いだ。



男たちは急いで川下へ走った。



「誰か、布!」


「火も焚け!」



口ぐちに指示が飛び交い、女たちが慌てて動き出す。



多々良もいそいで河沿いに走り出した。