蜃気楼








都楼はさっきから木の上に上ったまま降りてこない。



下で男たちは不安そうに顔を見合わせていた。



「大丈夫かな?」



多々良が呉壽の服を引っ張ると、呉壽はさっきとは打って変わって情けない顔をした。



「架妥が来ないんだ、そっとしておけ。」


「架妥…。」



言われて、やっと気付く。



見知った顔の中に、彼女はいなかった。



途中ではぐれたのかな。



「遅すぎる…。」



呉壽が頭を抱えた。



「ちょっと遠回りしてるんだよ。」


「…架妥にしてはそれでも遅すぎるんだよ。」



坊主頭を見下ろしたまま、多々良は何も言えなかった。



風を切る音がして、上から都楼が飛び降りてきた。



つかつかと、都楼があの状況下でも引っ張ってきた捕虜の前に立つ。



そしていきなり殴りつけた。



「架妥は?」



感情を一切感じられない声。



…これがみんなに恐れられる都楼の一面か。