蜃気楼

「みつけた。」



にやり、と男は笑って、架妥に近づいてくる。



「おおっ、ラッキー。
こいつには見覚えがある。」


「あ?」


「ほら、桂月の秘蔵っ子だよ。」


「桂月の?」



…桂月を知っている?



誰だ。



「奴の息子と同等の立場にいるガキだよ。」


「…いい人質じゃねえか。」



…思うようにはならない!



架妥は覚悟を決めて、崖から飛び降りた。



下は河、運が良ければ無傷なはずだ。



飛びおり際、背後から架妥を罵る声が聞こえてきた。



言ってろ。



都楼に迷惑かけるくらいならいっそ命を捨てるね。



水面が眼前に迫ってきた。



やば、怖いかも。



身体を打ち付けたような感覚。



そして水温の冷たさに息が止まった。



必死で水面に泳ぎ、顔を出す。



げほっと咳が出た。



肺一杯に空気を吸い込む。



取り敢えず、なんとか無事だな。



次につかまれるような漂流物を探すが、見つからない。



しばらくは頑張って泳いだが、架妥はそのうち力尽きて、意識を手放した。