蜃気楼

が、そんな心配はいらないようだった。



都楼は器用にそれを避けて走っていく。



そして、架妥の肩に手をかけ、何か言った。



架妥が悲しそうに目を伏せる。



一瞬、二人は固く抱き合い、次の瞬間には都楼は飛び去っていた。



…恋人だろうか。



そんなことを考えたが、もうそんな余裕がないことがわかった。



呉壽は乱暴に多々良を下すと、交代に小さな子供を2人担ぎ上げた。



「自分の足で走れ。
遅れたらおいていく。」



今までよりも真剣な瞳で多々良を見、呉壽は走り出した。



後ろから幾人かがついてくる。



誰かの妻だろうか、何人も女がいた。



胸に赤ん坊を抱いている者もいる。



呉壽は振り向かない。



周囲に絶え間なく視線を走らせながら、足を動かしていた。



多々良は感じた恐怖、そして命の危険にただ震えるばかりだった。



…初めて、戦争孤児の子ども達の生々しい記憶を体験した多々良だった。