蜃気楼

颪の掟の一つに、殺しはしない、というのがある。



命を守るためなら、個々の判断に任せられるが、基本はもしそれを破ろうものなら、追放される。



いらぬ恨みを買うとあとが面倒だからだ。



しかし、都楼だけは例外だ。



今、頭は都楼と架妥、二人で努めている。



が、実質賊を取り仕切っているのは、都楼だ。



故に、彼だけが獲物の運命を変えられる。



架妥は無意識に一歩、踏み出した。



都楼、と小さく呼ばわると、都楼は振り向かず、手だけ振った。



それが何を意味するのかわからない。



架妥はじっと都楼の背中見つめた。



気に入ったように見えたのに…。



奴を殺して、なり替わるつもりだろうか。



都楼が短剣を振りかざした。



多々良は気配を感じているはずなのに、落ち着いている。



思わず架妥は顔をそらした。



ザッと音がする。



悲鳴が聞こえないので、恐る恐る目を開けた。



…多々良が、ぱらりと落ちた目隠しを払い落している。



…斬ったのは、布か。



ほうっと安堵する自分がいた。