蜃気楼

呉壽はむっとして、多々良の頭を小突いた。



「やめろ。」



都楼が不機嫌に言う。



呉壽は小さくなって、後ろに下がった。



相変わらず、声は荒げないくせに威圧感がある。



架妥は架妥で、視線で呉壽を咎めた。



「で、多々良とかいったっけ?」


「多々良。」


「お前、このペンダントに覚えは?」



だから、と多々良は不機嫌なまま答えた。



「僕の記憶は孤児院で始まってる。
…それに、僕が本当に王族の血筋でも、そんなのどうでもいい。
それを証拠に欲しいんならあげるよ。」



どうやら本気らしい。



ふん、と目隠しで見えていないくせに、勝気に都楼のほうを向いた。



にやり、と都楼が笑った。



おお?



さては、都楼。



お前、多々良が気に入ったな?



「いいだろう。」



小生意気な笑いを浮かべて、都楼は多々良に近づく。



片手には、短剣。



周りの山賊達は、怖々都楼を目で追った。