蜃気楼

「行くぞ。」



架妥が先に立って歩いていく音がする。



僕はどこへ連れて行かれるのだろう。



アジトだなんて、信じられない。



ついこの間院を出ただけなのに。



もう僕の人生は終わりを迎えるのだろうか。



多々良はふうっと大きなため息をついた。



どうにかして金を稼いで院長に恩返しをしようとしていたのだが、それも叶うことはないらしい。



申し訳ないなぁ。



「それにしても、架妥。
なんだってこいつは王家のペンダントを?」


「知るか。
そういうことは都楼に訊け。
あいつは情報通だから何か知ってるかもしれない。」


「俺、あの人苦手なんだよ…。」


「ほう?
都楼に言っておこう。」


「…やめろよ、お前。
本気で止めろよ?」



呉壽が多々良を支える手に力が入った。



痛いって。



迷惑だ。



呉壽の筋肉質な肩の上で揺られ、多々良は気分が悪くなったのだった。