蜃気楼

そうか!



多々良は思わず手を打ちそうになった。



あれが、牢なんだ。



扉は、カモフラージュなんだ!



わかったぞ、呉壽!



見つけた、ついに見つけた。



多々良は踵を返して早足に歩き始めた。



今や疲れは吹っ飛び、頭は完全に覚醒している。



部屋への道筋も、はっきりと思い出される。



なんとか迷わずに部屋までたどり着き、多々良は飛びつくように文机に向かった。



引き出しから紙とペンを引っ張り出し、記憶を呼び覚まして出来るだけ細かく道を記す。



脱出しやすそうな大きな窓も近くにあったし、これを呉壽に渡し、自分が注意を引きつけている間に逃げてくれれば。



「うん、出来た。」



パンッと紙を広げ、日に透かして確かめていると、背後から深みのある声が聞こえた。



「ふむ、いい出来だ。」



驚いて声も出なかった。



猫のように飛び退り、壁に張り付く。



冷や汗が流れ、心臓もどくんどくんと激しく脈打っている。



多々良はからからの喉から、何とか声を絞り出した。



「…どうして…ここに…。」


「さっき尋ねてみたが、留守のようだったから邪魔させてもらった。
うろついているところを召使いに見られでもしたら厄介だからな。」



王はゆったりとソファに腰かけた。