ひらりと手を振ってその後姿を見送り、多々良はのろりと立ち上がった。



大きく欠伸をし、軽く身体を捻って頭を起こす。



「よし。」



そろそろ、僕も仕事しなきゃ。



多々良はそろりとドアに歩み寄り、ぴたりと耳をつけた。



廊下から物音は聞こえてこない。



なるべく音を立てないようにドアを開け、するりと外に滑り出る。



どうやらここは人通りの少ないところらしく、人の気配はない。



多々良は早足に歩き出した。



足がふかふかの絨毯に沈んでいく感触がなんとも不思議だ。



あちこちにある見たこともない装飾品に感動しながら、多々良は廊下を歩き回った。



牢屋に通じる道とか、発見できたらいいのにな。



長時間歩き回ったものの、目当てのものは見つからない。



それに、そろそろ道順を頭に叩きこむのも限界だ。



記憶力はいいと自負していたが、さすがにこんなに大きな建物の入り組んだ道筋を記憶するのは不可能に近い。



くそ、せめて書くものでも持ってくるんだった。



舐めてたな。



今さら自分の不注意を呪っても仕方ないが、多々良はいらいらと歯噛みした。



もう帰ろう、と回れ右した多々良の耳に、叫び声が飛び込んできた。



驚いてびくりと身をすくませる。