「……い」
千往が口を開いた瞬間、サーフ系のステッカーをべたべた貼りつけた車が通り過ぎた。
ガンガン鳴らされたカーステのせいで上手く聞き取れない。
「え?」
思わず聞き返して次の言葉を待つ。
ぷるぷると震える肩。うつむく表情はよく見ることができないでいる。
…ただ、ぎゅうっと握られている千往の両手。
負荷がかかっているのか、底冷えする朝の中で真っ赤になった手。
「おそいよ……」
───遅い?
おうむ返しに繰り返せば、千往は勢いよく顔をあげる。
俺は突然のことに対応しきれずに立ち尽くしたままで、それを見ていた。
俺が思う千往は、
いつだってのんびりとしていて、マイペースで。
泣いたり怒ったり、目立った負へ向かう感情の起伏なんてない。
だから、今日の千往に感じた違和感はたぶんコレだ。
いま千往から伝わるこの痛みは負じゃない。
だけど、届かずにくすぶるその痛みが向かう先は
────きっと、俺だ。



