千往の隣でふうっと息をつく。白い息がぼんやりと現れて消えた。
ちらりと横目に千往の様子を伺うと、やっぱり少し遠くをじっと見つめて何か考えているらしかった。
「ありと」
「…なに?」
千往は、目を細めて続けた。
「リセットボタンはついてないよね」
“リセットボタン”?
俺の中に巻き起こった渦は、その言葉の意味を…それを放つ千往の意思を捉えかねて、むくむくと膨張していく。
リセットってことは、なかったことにするってことか?
千往の何かを?俺の何かを?
それとも、勝負の結果を?
「…そんな機能、ついてない」
俺はそう言った。
内容がなんであれ、千往とのあいだの何かをなかったことになんか、俺にはできなかった。したくなかった。
「じゃあ、戻らないんだね」
大型のレッカー車が鈍い音と共に横切っていくと、黒い排気ガスが立ち込めた。
「戻んないよ」



