裏庭での一件で、あたしと藤原くんとの距離が、少し近づいた。

近づいたように思う。

藤原くんの笑顔と、彼が優しいんだというのを知るきっかけを作った子猫。

名無しの子猫に、藤原くんはリィと名前を付けた。

放課後に、時間を作っては裏庭へ行き、リィの様子を見る毎日。

何度も藤原くんと鉢合わせしていたから、しまいには一緒に見に行くほどになっていた。

こうやって話しをするなんて、思ってもいなかったから、話す一言一言が、すごく新鮮に感じられて、楽しかった。


教室でも、時々話すようになっていた。

今まで、まったく話しをしていなかった二人が、ある日を境に話しをするようになると、周りは気づくものだ。

小さな変化に、周りは過剰に反応する。

最初、あたしは気づかなかった。

「武藤さんと藤原くんは、付き合ってるの?」

休み時間に、クラスメイトの女子がこっそり聞いてきた。

目をぱちぱちさせ、あたしの言葉を待っている。

このときはじめてわかった。

あたしと藤原くんは、付き合っているって思われるほど、周りには仲良く見えていたって。

「付き合ってないよ。ただ、最近話しをするようになっただけで、友達だよ」

その答えはうれしかったのかな?

「そうなんだー。藤原くんカッコイイからね~」

そう言って、そのコは去って行った。

今、思いっきり失礼なこと言われた気が……。

遠まわしに、あなたになんて興味ないのよ、好きじゃないのよ。そう言われた気がした。

事実、藤原くんとは付き合ってもいないし、友達って言ったけど…友達であるのも疑わしい。

あたしは、藤原くんを友達と思ってるけど、藤原くんは、あたしを友達って思ってくれてるのかな?

午後の授業の準備をしながら、ふと思った。