風に揺蕩う物語

「リオナス…お前は他人と自分の表面ばかり比べ過ぎだ。お前は剣術だけとれば俺よりも遙かに上で、俺はお前より槍術が上なだけなんだ。他人と技術を比べる前に、もっと内面に目を向けろ。その眼に映る世界観の捉え方を変えるんだ」

「それはどの様に変えれば…」

「具体的な答えなどない。すべては感覚によるものだ。そしてお前には、それが出来る筈なんだ。なぜならお前は、シャロンの悩みを見抜き、シャロンを救ってみせたじゃないか。それと何も変わらない…そういう意識を戦の中でも持てれば自ずと見えてくるものがある」

リオナスの本質。過去を見れば、ヒューゴよりも穏やかな性格をしているはずだった。時に騎士には不向きな性格だが、相手の気持ちを汲む上ではこの上ない性格だ。

だからヒューゴが気付けなかったシャロンの悩みに気づけた。リオナスはその人間力を剣術に生かしきれていない。

騎士としての自覚を持ちすぎて、己の本質すらも殻に覆い過ぎている。

だからヒューゴは、リオナスに夢を託したのだ。ヒューゴはリオナスが、全てにおいて自らを上回っているという確信をもっている。

「お前は強い。でもまだまだだ…日々精進するんだな」

話は終わったと言わんばかりにそう言うと、ヒューゴは鍛練場から姿を消した。

残されたリオナスは、ただ茫然とその場に立ち尽くすのみ。

少し過酷かもしれないが、お前の為なんだよリオナス。己の心を鍛え、本来の自分の力に気づいた時…その力が己の危機を救ってくれる。だから逃げずに立ち向かえ。

ヒューゴは普段出来ていない兄としての仕事を静かにこなす。それは自分にも言える事だと知りながら…。

シャロンは静かにギルバートの話を聞いていた。

イクセンの国があった土地の話

エストール王国との戦が終わり、イクセンの痩せた土地も幾分か作物が実るようになった。だが治水がもたらす恩恵を受ける代償に、敗戦国としての身分を追われた立場の人間がいる。

それがイクセンの軍部に居た人々だ。彼らは長らく国民に苦税を強いていた国王の恩恵を唯一受けれた人物で、その期間が長かった分、イクセンの国民からは良く思われていない。