風に揺蕩う物語

はっきりとヒューゴに負けたと言われたリオナスは、苦悶の表情を浮かべながら口を噤み押し黙る。

押し黙るのはリオナス自身がそれに気づいているからなのだが、ここまでハッキリと負けだと言われると、どうにも納得のいかない思いが出ているのだろう。

だがそれ以上にヒューゴの負けた理由が理解出来ていないという言葉が頭に一番響いていた。

「お前はどうせ剣術で自分が負けたと思っているんだろう。だが俺の見た感じではお前は剣では負けていない。経験で負けたんだ」

「経験で負けた?それこそ技術で負けた事と理由は同じはずだ!」

「違うな。経験とは即ち己が戦でどのように動けるかを把握する力だ。お前は自分の力を具体的に想像出来ていない…だから負けたんだ。力で劣る相手にな…」

「…力で劣った相手に……負けた?」

リオナスはヒューゴの最後の言葉が頭で鐘の様に反響しているのを感じる。セヴィル将軍のあの強さよりも俺の方が上?なのかと…。

「リオナス…お前は技術では勝っていた。だが経験の分野で圧倒的にお前が負けていた。結果的に相手の方が一枚上手に試合を運ぶ事に繋がったのさ。それがあの試合でのお前の敗因だ…」

口を開けない。言葉が出てこない…。

リオナスは自分の中で何かが壊れる感覚を覚える。今まで自分は何の鍛練をしてきたのかと…。

技術をもってるのに、それを生かしきれていない。それは己を知らないという事。という事は俺は未熟なのか?それも度を越した未熟者。

リオナスの表情が平素の時とは変わりつつあるのをヒューゴは感じていた。だがヒューゴはそんなリオナスにはお構いなしに言葉を続ける。

「お前はセヴィル将軍との試合中に何を見ていた?相手との間合いか?それとも相手の癖か?」

ヒューゴの言葉は頭に入っている。だが言葉が出てこない。

「答えろリオナス。お前は何を見ていた…」

リオナスは自分の殻に閉じこもろうとしている様に見える。ヒューゴはそんなリオナスの姿を見て、深くため息を吐いた後、大きく息を吸い込む。

「リオナスっ!!」

室内が震えるほどの怒声を上げたヒューゴ。流石にその声には体を震わせて反応を示したリオナスが、唖然とした様子でヒューゴを見つめる。