風に揺蕩う物語

エストール王国には槍術が存在しない。その理由は槍は扱いが非常に難しい代物だからだ。それに槍とは外の戦いには向いているものの、室内の戦いには不向きな武器なのだ。

なのでエストール王国では騎士のほとんどが剣を扱う。大きく分類すれば、小剣と中剣と大剣だ。

用途によってその武器を使い分ける様に騎士は剣術を身につける。それが基本であり、ほとんどの騎士がその道に何の不満もなく進んでいく。

だがヒューゴは槍を扱う。それも神と形容されるほどの技術をもってだ。

リオナスにはそれが理解できなかった。リオナスが気づいた時にはヒューゴは槍を扱っており、気が付いた時には…リオナス自身が呆気にとられるほどの力を身につけていたのだ。

自尊心が邪魔をして今まで聞いてこなかったリオナスだが、思い切ってヒューゴにその事を聞いていた。

「特に特別な事などない。僕の槍術はただの自己流だ。槍の特徴を考え、自分の理想にあった技術を実践と鍛練で身に付けただけ。別に不思議な事など何もない」

リオナスは意を決して聞いてみたのに、返ってきた答えが在り来たりなもので少し拍子抜けを食らった表情をしている。だがこの答では納得出来ないのか、口調を荒げながらヒューゴに話す。

「そんな訳がないっ!槍術に確立された技術がないという事は、それだけ難しい技術だという事です。それを兄上はたったの数年であれほど完璧な技術を編み出したと言うんですか?」

「完璧?…まぁあれで完璧だったのなら、編み出した事にはなるな」

この時ヒューゴにある種の懸念が生じた。それはリオナスがセヴィル将軍との試合で感じた事と、ヒューゴが試合を見て感じた事に違いが生じている事だ。

リオナスは苛立った表情を浮かべ、ヒューゴを眺めている。

何を焦っているかと思えば…。

「リオナス…お前は何も分かっていない」

唐突にそう言われたリオナスは、驚きの表情と同時に怒りの言葉をヒューゴにぶつける。

「何がだっ」

「お前がセヴィル将軍に『負けた』理由だよ」