風に揺蕩う物語

そういうとギルバートはその場から腰を上げ、シャロンに手を伸ばして見せる。シャロンはその手を上品に片手だけ乗せ、静かに立ち上る。

「ありがとうございますギルバート様」

「うむ…それでは向かおうか。エストール名物の白桃を使った焼き菓子があったはずだからな。シャロンの口に合うかわからんが楽しみすると良い」

奇しくも時間をおいてヒューゴと同じ道を進みながら、二人は王族騎士の兵舎に向かい足を進めた。

そんなヒューゴは足早に歩を進め、リオナスの下に向かっていた。すでにヒューゴの表情はシャロンに見せていた表情とは違い、硬い表情を見せている。

王宮を出たヒューゴは、その足で騎士の兵舎に向かった。騎士の兵舎の外観の特徴といえば、どれだけ丁寧に切削されたのかわからないほどの滑らかさを誇る石にあるだろう。

雨に晒されようと嵐が来ようと、その外壁には土汚れが全くつかないのだ。その為か綺麗な外壁の下の地面には、小さな塵などが溜まり易く、若い騎士などが朝早くから毎日掃除をする姿を見るのがエストール城の中では常だった。

そんな兵舎なのだが、人が横に並んで歩いても、10人ほどが通れる幅がある入口の上に、大きく飾られているエストール王国の国旗が飾られていた。

一流の刺繍技術を持った人物が、この国旗を作るのにどれだけの時間を要したのだろうかと考えてしまうほどの大きな国旗が、入口の真下に来ると視界一杯に広がるのだ。

ヒューゴも良くこの国旗に向かい忠誠の意味を込めた敬礼をして見せたものだった。自分の命を賭けてでも守り通す覚悟を、この国旗に示すのだ。

ヒューゴは入口に飾られてある国旗を少しの間見上げた後、王族騎士の兵舎の中に足を踏み入れた。昔は見慣れた光景でも、1年も遠ざかると感慨深いものがあった。

それでもリオナスが自分の事を待っていると考えたヒューゴは、足早に思い出深い通路を通り抜け、酒場や武器庫などを通り抜けた先にある鍛練場に足を踏み入れた。

その場所には試合の時に見せていた姿のまま、大剣を握っているリオナスの姿があった。それこそ演武の様な滑らかさを見せながら剣を振るうリオナスの姿には、見るものを魅了する何かがあるように見える。