風に揺蕩う物語

ギルバートがヒューゴの座っていた所に座り、シャロンはその場から立ち上がり、深く頭を下げてヒューゴを送り出す。ヒューゴはそんなシャロンに手を振って見せるとそのまま姿を消した。

ヒューゴが角を曲がり、視界から居なくなった事を確認したシャロンは、下げていた頭を上げ、ギルバートの隣に姿勢を正しながら座り直す。

そんなシャロンの様子を見ていたギルバートは、目を細くしながらその様子を見ていた。

「シャロン…お主は昔と変わらんな。礼儀正しくて忠誠心も強く、それでいて凛々しい姿とそれゆえの弱さを丁度良くその身に持っておる。ワシの教え子たちの見本にしたいぐらいだ」

「買いかぶり過ぎでございますギルバート様。私はその様な立派な人間ではありません…粗相も多いですし、ヒューゴ様を困らすことも少なくございません」

相変わらず謙虚な姿勢を見せるシャロンの様子を見て、ギルバートは抑揚に頷いて見せる。

「自分を知っている者は自分が完ぺきだとは申さないものよ。シャロン…お主は昔と変わらず良い志を持っておる」

褒めちぎるギルバートの様子に、素直に嬉しいと感じながらもやはりその言葉に同意は示さないシャロン。

そんな様子のシャロンを見たギルバートは、これもまたシャロンの良い所だと考え、これ以上の言及はしなかった。

「それはそうとシャロン。少しお主に聞かせたい話がいくつかあるのだが…聞いてもらえるか？」

「はい。私でよろしければ聞かせて頂きたく思います」

シャロンの返事を聞いたギルバートは、話をしよとしたのだが、思いついたかのように言葉を変える。

「そうだシャロン。長い式典もあって少し小腹も減っておろう…紅茶でも飲める場所に移動しないか？その方が時間を気にせずにおれるしな」

「私は大丈夫ですが…ヒューゴ様が私の居場所をお間違えになられるのではないでしょうか？」

「その心配はない。今から向かおうと思っている場所は、騎士の兵舎の中にある酒場だからのぉ。この時間から酒を飲む馬鹿者はおらんから、ワシが紅茶の一つでも用意させよう」