風に揺蕩う物語

ヒューゴが王宮に来た理由は、式典に出ること。シャロンはそうだとばかり思っていたのだが、ヒューゴはこれからが本番だと言う。

その真意が分からないシャロンは怪訝な表情を見せる。ヒューゴはそんなシャロンの様子を感じ、真意を語った。

「本日の目的は、リオナスの試合を観戦する事。そしてもう一つの目的は、シャロンの社交界進出にあったりして…つまりは夜に開かれる宴に参加する事さ。僕の下にはその招待状も届いているしね」

ヒューゴが軽快な様子でそう言うと、いつの間に持っていたのか、人差し指と中指の間に綺麗に折り畳まれた便箋をシャロンの目の前に突き付ける。

一瞬の間、呆けていたシャロンだが、すぐに表情を一変させ…ひどく慌てる。

「ヒュっヒューゴ様!?それはいけません!私はただの使用人で紛れもなく平民です。この場に居る事すら不相応な立場ですのに、王族の宴に参加するなど…」

「シャロンならそう言うと思った。だから僕も秘密にしてたんだけどね」

そう言うヒューゴだが、本当の真意は少し違うところにある。というのもヒューゴはシャロンを社交会に進出させる気など少しもない。

ただ試してみたいだけ。シャロンを他の貴族の男性が見てどう思うのかを。

その結果次第で見えてくるモノがある。それがこの先長い人生が待っているだろうシャロンの人生を左右する結果に繋がるはずだから。

「でももう遅いんだなこれが。僕は宴に出席するって書簡を出してしまったし。どうか一人で出席するのが心細い僕の気持ちを組んでもらえないだろうか?」

優雅な礼を見せながら話すヒューゴに、シャロンはひどく落着きがない様子で手を口元に当て、困惑している。

辺りは王族が退席した事で、式典の後片付けを開始しており、今のシャロンの様子を気にする者など誰もいない。とりあえずヒューゴは、困惑して声も出せないシャロンの手を取ると、そのまま会場の外に出る事にした。

そして適当に座れる場所まで来ると、シャロンを座らせ自分も隣に腰を下ろす。そして幾分落着きを取り戻したのか、小さな声でシャロンは言葉を発する。