風に揺蕩う物語

初めは体力が落ちているだけだと思って、剣術や槍術の鍛練を普段よりも多くし、体を鍛えていたのだが、体力が戻るどころかどんどん落ちていった。

それは日に日に酷くなり、体力だけではなく腕力や脚力。それにちょっと鍛練をするとすぐに体調を崩すようになりなり、しまいには片手剣を片手で振れなくなるほど腕力が落ちてしまった。

そうなると騎馬隊長はもちろん、王族騎士を務める事も叶わなくなる。だからといって、貴族の仲間入りを果たしたシャオシール家の当主が、陸軍の一般兵に混じる訳にもいかない。

こうしてヒューゴは、王国軍の中で居場所をなくしてしまったのだ。

初めの頃はヒューゴも、遮二無二どうにかしようと奔走していた。だがどれだけ調べようが病名は分からなかった。

そんな時ヒューゴは、古い文献の中で昌霊術の存在を知った。病気の事は何も書いていなかったが、気になる文面を見つけたのだ。

昌霊術を扱える者は、普通の人が見えない何かを見る事が出来たり、天候の変化などを感知する事が出来ると書いてあったのだ。

ヒューゴにはこの文面に心当たりがあった。

昔から天気を予想する事が出来るのがヒューゴの特技だったのだ。それに人が持っている持病や怪我などを何となくではあったが、顔を見るだけで見破る事が出来たのだ。

ヒューゴは昌霊術に関する記述が描かれている文献を全て読み漁り、藁にもすがる思いで昌霊術を研究した。

その結果、こうして万能薬を作る技術を手に入れたのだが、自分に対してだけは何も効果が出なかった。

これが1年前の出来事である。こうしてヒューゴは王国軍で国を守るという夢を完全に諦めてしまった。

きっぱり諦められた背景には、弟のリオナスの存在もあった。

リオナスは剣の筋が良かった。それこそ同年代で敵がいないぐらいの実力を持っている。それに向上心も豊かで、もう少し実践経験を積めば、格国に名が知れ渡るほどの騎士になれるだろう。

自分の夢を弟のリオナスに託す。

そう思えたからこそヒューゴは、きっぱりと諦めることが出来たのだろう。