風に揺蕩う物語

シャロンは驚きの表情でヒューゴを眺め、アスラとムーアは軽快な口笛を吹き、ギルバートは大きな声で笑ってみせる。

「ワシも同意見だヒューゴ殿。お主なら負けないだろうな…流石のセヴィル将軍でもヒューゴ殿の『神槍』には近づけまい。一太刀すら浴びせられぬだろうな」

そんなギルバートの言葉に同意を示すアスラとムーア。ヒューゴは握手を終え、自分の主の下に帰っていく二人を眺めながら、思案にふけっている。

シャロンにしてみればヒューゴの言葉は信じがたい言葉だった。あのリオナスですら劣性を強いられたセヴィル将軍が、ヒューゴに一太刀も当てられないというのかと。

だがギルバート達が当然の様にヒューゴの言葉に同意を示すには何かしらの理由がある。だがシャロンは現役で騎士を務めていた頃をヒューゴを話でしか聞いて事がない。

だがそれも憶測でしかない。なぜなら今のヒューゴは昔のヒューゴとは違うのだから…。

式典が終わり、回りが騒がしくなる気配を感じながらもヒューゴはシャロンの肩に手を置き、表情を和らげながら言葉をかけた。

「でもまぁリオナスは強くなったよ。それは評価しないとな…」

平素のヒューゴに戻った気配を感じたシャロンは、そんなヒューゴに微笑みかけながら深く頷く。

「そうですよヒューゴ様。リオナス様はシャオシール家に恥じない武をお見せ下さいました。ランディス陛下からもお褒めのお言葉を頂いておりますし、私はリオナス様にお仕えさせて頂いている事を光栄に思います」

そしてシャロンの堅苦しい言葉使いも戻ってきていた。

その後、アスラやムーアは警備の仕事があるようでその場を後にし、ギルバートも執務があると言って式典会場から姿を消す。

次々に会場を後にする人々をヒューゴとシャロンは眺めていると、シャロンがおもむろに口を開いた。

「私たちも屋敷に戻りますか?今日はこれで終わりですよね?」

その場を動かないヒューゴにシャロンから言葉をかける。するとヒューゴは意味深な笑顔を見せると、首を一度横に振る。

「それがまだなんだなぁ。これからが本番と言っても良いからね…」

「本番…とは?」