風に揺蕩う物語

「一人が怖いと思うのなら、僕も一緒に居てあげるよ。どうするシャロン?会場の外に出ようか?」

リオナスの試合は気になるヒューゴだが、小動物のように震えているシャロンをこれ以上この会場に居させる事の方が気になったヒューゴ。

この場所に居る者のほとんどが試合というものをある程度知っている人物ばかりだ。セヴィル将軍もリオナスがあの一撃をまともに受けると思っていないからこそ繰り出しただけだとほとんど者が気づいている。

それはすなわちリオナスの実力をセヴィル将軍が認めている訳で、格下相手ならここまで際どい一撃など繰り出す訳がないのだ。

だがシャロンはそこら辺の区別が当然ながら出来ない。逆に出来たら驚くべき事なのだが…。

「いえ…逃げません」

逃げないか…。そう考えて見守っているのであれば、大丈夫かな。

「そうか…ならしっかりと見守っていろ。それに本当に危険な場面になれば自ずと試合は終わりを見せるはずだ」

ヒューゴはそう言うと、再度切りかかっていくリオナスの姿を視界に捉えながら、試合の行く末を見守っていた。

この後試合は壮絶な切り合いを見せたのだが、意外な形で決着を迎えることになった。

肩で息をしているリオナスと呼吸を乱しているものの、まだ幾分余裕のあるセヴィル将軍。その状況を見たヴェルハルトが、席から立ち上がると試合を止めた。

「双方もう充分だ。これ以上は大怪我に繋がりかねん。ヒクサク殿は異論はおありか?」

驚いた表情を浮かべるリオナスと、長刀を構えつつも気を抜かないように努めているセヴィる将軍。その様子を見ていたヒクサクは、その場に立ち上がると抑揚に頷いて見せる。

「私もヴェルハルト殿と同意見です。大変良い試合を見せてもらった…これ以上は何も望みませぬ」

「そうですか。父上…ご同意頂けますか?」

二つ隣りに座るランディス国王に視線を送るヴェルハルト。ランディス国王はその場から立ち上がると、手を前に突き出し、言葉を述べる。

「これにて試合は終了にする。双方良い試合を見せてもらった。皆の者、勇敢な武を見せた二人に盛大な拍手を…」