風に揺蕩う物語

「そうきたか…二人とも本気のようだな」

その様子見ていたアスラが、おもむろに口を開く。その眼は真剣そのもので、いつもの軽快な様子ではない。

「大剣を扱うリオナスに、長刀を扱うセヴィル将軍。おのずと間合いの取り合いが勝負を分ける事に繋がるからな。まるべくしてなった展開だ」

ムーアも真剣そのもので、その手に厚手の絵画用紙とペンさえ携えていなければ、どこからどう見ても騎士に見える。

リオナスは姿を現すとセレスティアの前で立ち止まり、鞘から大建を引き抜くと自分の胸の前で剣を持つ。

「かならずや吉報をお伝え致しますセレスティア様。この剣にかけて…」

「わかりました。怪我だけはしないようにお気をつけて…」

「御意」

セレスティアは冷静にそう言葉を述べ、リオナスが返事を返して見せる。その後リオナスは、ランディス国王やセレス王妃、それにヴェルハルトにも頭を深く下げると、会場の真ん中に移動を開始する。

セヴィルもリオナスと同じ様にヒクサクに言葉をかけ、その後に中央に集まる。

会場は緊張感に包まれ、ヒューゴはもちろんギルバートすら瞬きを忘れて中央に居る二人に視線を送っていた。

この時ヒューゴは、自分の隣でかすかに体を震るわせ、目を瞑りながら何かを呟いているシャロンの姿に気づいた。

その言葉はよく聞くと、祈りの言葉で、戦が始まる前に良く耳にする言葉だった。

何かシャロンに優しい言葉をかけて上げたいと思ったヒューゴだが、あえてそれをしなかった。

これは武家として生まれた定めだ。シャロンがシャオシール家に居る限り、克服しないといけない問題でもある。言葉だけの優しさをかけたところでシャロンの不安な気持ちが収まるとは思えないし。

ヒューゴは中央に居るリオナスとセヴィルを凝視する。その眼はすでに平素のヒューゴではない。何かを見定める様に見ている。

セヴィル将軍の刀はかなりの長さだ。噂以上に長い。

それを片手で思うように操れるとしたら、かなり手ごわい相手だ。リオナスの大剣もかなり大きいが、それでもセヴィル将軍の刀よりは短い。