「セレスティア様はリオナス様が心配なのではないでしょうか。私と同じく…」

考え事をしている僕の横で、シャロンがそうつぶやく。途端に口うるさく言葉を発していた二人も口を閉ざし、ギルバート殿もシャロンに注目する。

「以前ヒューゴ様が、目の前で大怪我したお姿をセレスティア様はご覧になっています。その姿が御目に焼き付いていらっしゃるのかと…恐れ多いですが、私がセレスティア様と同じ立場なら、怖くて仕方がありません」

実際シャロンは、すでに緊張している様子で手を胸の前で組んで居る。

騎士としての意見しか持ち合わせていない四人は、シャロンの意見を聞いて考える。四人ともリオナスとセヴィルの試合を楽しみにしてはいるものの、怪我の心配などはしていない。

怪我をしたとしてもそれは、己の未熟故の代償と考える。戦に出れば、弱い者は怪我をしやすいし、最悪死んでしまう。だからこそ厳しい鍛練を欠かさずこなし、自分に自信をつけるのだ。

シャロンの言葉を受けたギルバートは、抑揚に頷くと口を開く。

「シャロンの言う通りなのかもしれぬな。セレスティア様はお優しい御方だ。日々自分の為に働いてくれているリオナスに、慈しみの気持ちを持っていらっしゃるのかもしれぬ…ワシ達も少し考えを改めなくてはならぬな。セレスティア様の感情の変化も見抜けぬようでは王族騎士の名折れだ」

ギルバートの言葉にヒューゴは深く頷く。その通りだ。

シャロンが心配している様に、セレスティアも心配なのだ。リオナスの事が。

ヒューゴ自身、ヒクサクとの試合を機に騎士としての職務を事実上引退する事になった経緯もある。ヒューゴの病気を考えれば少し真実は違うのだが、結果だけ見ればそうなるのだ。

「…でも僕たちは見守る事しか出来ない。それに結果は試合をしてみないと分からないし。ギルバート殿なら先見を見抜けるかもしれないですが…」

ヒューゴの言葉にその場に居た者たちがギルバートに注目し出す。するとギルバートは笑顔を携え言葉を述べる…。

「リオナス殿は良い騎士だ。ワシは久しぶりに試合で剣を手放してしまったよ」

嬉しそうにそう話すギルバートの言葉を受け、シャロン以外の皆が意味深な笑顔を見せる。

これは本当に楽しみだ。そうこうしている内に全ての入場のが終わりを迎えた。