風に揺蕩う物語

レオナは化粧道具を片付けながらシャロンの事を考える。

レオナはシャロンの事を色々知っていた。

イクセンとの戦での生き残りだということも、ディオスがシャロンの器量と優しさを知って、使用人としてシャオシール家に招いた事も。

子供が覚えるにはまだ早すぎる知識を持ち、その知識を応用する事が出来る5歳の子供。おおよそ文官に求められる器量の全てを持つシャロンは、かなり貴重な存在である。

知識だけを持っていても、それを応用出来ないと官吏は務まらない。そして逆もまたしかり…。

エストール王国で文官の塾でさらに知識を学ばせれば、エストール王国最年少で文官として元老院で勤めることもシャロンなら出来ただろう。

でもそれをしなかったのは、ディオスがシャロンに人並みの幸せを感じさせてあげたっかたのだろうとレオナは思っていた。

シャロンさん。あなたは今幸せでしょう。

そう感じる事が出来るのは、あたなの頭の良さではなく、周りにいる人々がシャロンさんを愛しているからなのですよ。

レオナは片付けを終えると、傍にいた女官に声をかける。

「さて…私はセレスティア様の下に戻ります。今日は数多くの貴族の方々がエストール宮殿にお見えになっていますので、粗相のないようにお願いしますよ」



シャロンが部屋を出ると、すぐ近くで壁にもたれ掛りながら立っているヒューゴの姿があった。

「ヒューゴ様。大変お待たせしました」

「そうでもないよ。それと…良い顔になったね」

すでに怒っていない様子のヒューゴに内心安堵したシャロンは、ヒューゴの言葉に少し笑ってみせる。

「レオナ様のおかげです。大変良い化粧技術をお持ちでしたから」

「それもあると思うけど…何か表情が明るいよ。何か良い事でもあったのかい?」