風に揺蕩う物語

「きっとヒューゴ様は、シャロンさんがシャオシール家の家族だと衆智に知れ渡るように振舞おうとお考えなのでしょう。それなのにシャロンさんが過去の出来事をお話になられて、それを負い目に感じている様にお考えなのが我慢出来なかったのではないでしょうか?」

レオナは手際の良い手つきでシャロンの化粧を仕上げていく。そして対して時間もかけずに完成させたかと思うと、鏡台の前にシャロンを招く。

「人は生まれつき何らかの身分を持って生まれます。ですがその身分も状況と共に変化し、それに順応して生きていかねばならないのです…今のシャロンさんは、どういった立ち位置に居るかをもっと考えねばならないと思います。ヒューゴ様を思い、生きていくのであれば尚更です」

「私は…」

シャロンは鏡台の鏡に浮かぶ自分の顔を見ながら考えた。自分は何者で、どういった立場に居るのかを…。

「私はシャロン・ルクデシベル。ヒューゴ様やリオナス様のお世話をする者です…それ以上でもそれ以下でもありません」

「シャロンさんは蛮国の女性ではありませんね?」

「はい…私はシャオシール家の家訓を守る者。当主であらせられるヒューゴ様のお考えの通りに生きます」

鏡に浮かぶシャロンも、同じ言葉を鏡越しにシャロンに問いかけている。考えは纏まった。

「それでは外でお待ちのヒューゴ様の下にお戻りください。あなたのご主人が首を長くしてお待ちですよ」

「はい。お化粧して頂きありがとうございますレオナ様。これほど手際の良い化粧をして頂いたのは初めてでございました」

シャロンはそう答えると、そのまま部屋を退室していく。そしてレオナが後片付けをしていると、他の女官が急いで中に入ってきた。

「なにもセレスティア様の髪結いやお化粧をなさっているレオナ様自らが、お化粧をなさる事はなかったのではないですか?私達でも化粧直しぐらいは出来ますよ?」

レオナはそんな女官達に苦笑を見せる。

「少しお話をしたかったのですよ…」