風に揺蕩う物語

そしてヒューゴは女官の一人に目くばせをすると、開いている部屋を用意してくれたようで、感謝の言葉を述べた後その部屋に入る。

ヒューゴはシャロンを椅子に座らせ、ただ泣きやむのを静かに待つことにした。

普段の彼女なら公の場所で泣く様な姿は絶対に見せない。それは本人も承知の事で、あまりの恥ずかしさから涙が収まっても顔を上げることが出来ないでいる。

「シャロン…大丈夫かい?」

ヒューゴの言葉が耳に入ったシャロンは、伏せていた顔を上げ、ハンカチで涙を拭いながらも、一言言葉を返す。

「ご迷惑をおかけしました」

「迷惑だなんて思っていないよ」

「…それにお化粧も取れてしまいました。せっかくヒューゴ様が化粧師の方をお呼びして下さったのに、無駄にしてしまいました」

「化粧なら宮中の女官に頼めばすぐに元に戻せる。どうやらそこら辺も察してくれているみたいだしね…」

部屋をノックする音が聞こえ、言葉を返したヒューゴの下に、先ほど姿を消したはずのレオナが一人姿を現す。

「ヒューゴ様。一度お外でお待ちいただいてもよろしいですか?私がお化粧直しをさせて頂きます」

「わかりました。よろしくお願いしますレオナ殿」

ヒューゴはレオナにそう言葉をかけると、そのまま部屋の外に出ようとする。するとシャロンは幾分腫れぼったい眼をヒューゴに向け、言葉をかける。

「本当にすみませんでした。やはり私のような蛮国の女がこの様な晴れやかな場所に来るべきではなかったのです」

「シャロン…それだけは言ってはダメだ。その発言だけは我慢ならない」

ヒューゴはそう言うと、穏やかだった表情を厳しいものにし、眉間にしわを寄せながら低い声で言う。

「俺の前でそのような事を二度と言うな。シャロンは当家の大切な家族だ。シャロンとイクセンはもう何の関係もない…」

そう言葉を残すと、ヒューゴはそのまま部屋を後にする。シャロンは表情を暗いものにし、再度俯く。

「ヒューゴ様に嫌われてしまいました」

「ふふっ…シャロンさんもまだ人生の勉強が足りませんね。私にはそうは見えませんでしたが」

レオナはシャロンの顔を優しく上げると、崩れた化粧を一度綺麗に落としだす。そして綺麗になったシャロンの白い肌に、白い色粉を肌になじませ始める。