風に揺蕩う物語

シャロンはレオナに向かい、一度深く頭を下げると話し出す。

「私はシャオシール家で使用人をさせて頂いているシャロンと申します。この度はヒューゴ様の御誘いの元この式典に参加させて頂いております。そうか私の事はシャロンとお呼び下さい」

「あなたがシャロンさんでいらっしゃいましたか。お名前はヒューゴ様やリオナス様からよくお聞きしております」

「私の事を知っておいでなのですか？」

「はい。シャオシール家の長女であらせられると伺っております」

レオナの言葉に驚いた表情を浮かべると、ヒューゴの顔を凝視するシャロン。だがヒューゴはそんなシャロンの様子を見て、笑ってみせるだけだ。

「レオナ殿は全てを知っておいでだよ。その上で理解しておられるのさ。実際父上はシャロンの事を実の娘のように考えていたようだしね」

ヒューゴがディオスの名前を出した事で、シャロンの涙腺が軽く緩んだように見える。耐えきれない感動を心の中に抱きながらも、それを表に出すまいと必死に顔を伏せながら耐えている。

「私のお口が過ぎたようですね。おしゃべりが好きな叔母さんが口に出すような事ではありませんでした…申し訳ありませんシャロンさん。それでは私はこれで失礼致します」

レオナはそう言うと、その場を後にする。シャロンはその様子に気づいていたものの、声を出すと涙が溢れてしまいそうで、口を開くことが出来ないでいる。

そんな様子のシャロンをヒューゴは優しく見守りつつ、シャロンの手を握ってみせる。するとシャロンは驚いて伏せていた顔を上げ、その拍子に一筋の涙が頬を伝った。

「シャロン…父上はシャロンの事を愛しておられた。それは紛れもない事実だよ。シャロンの気持ちを大事にし、養子として招かなかっただけで、いつでも養子としてシャオシール家になれる様に書類は書きあげてあった。その書類は今は僕の手元にある…そういう事だよ」

シャロンは我慢が出来なかった。己を律して生きる事になれていたはずなのに、この時ばかりは我慢が出来ないでいた。

周りに多くの人が居るのにも関わらず、涙が止まらずシャロン自身が戸惑っている。ヒューゴは俯いて泣いているシャロンの手をしっかり握ると、一度会場の外に出ることにした。