風に揺蕩う物語

そんなヒューゴの下に、豪快な笑い声と共に姿を現す、老人と言っても過言ではない年齢の大男の騎士が来た。

「お久しぶりだなヒューゴ殿っ!」

「これはこれはギルバート殿。お久しぶりです」

ヒューゴの傍らにいたシャロンも、ギルバートに向かって優雅に頭を下げた。そんなシャロンの姿を見たギルバートは、明るい表情のままヒューゴに聞く。

「久しく見ないうちにヒューゴ殿は妻を娶っていたのか?」

やはり勘違いされた。シャロンは慌てて否定しようとしていると、シャロンよりも先にヒューゴが答えてしまった。

「はい」

「御冗談はおよしになって下さいヒューゴ様っ。ギルバート様。私はシャオシール家でお世話になっている使用人のシャロンと申します」

深く頭を下げたシャロンの姿を注意深く見るギルバート。そしてシャロンという名前を聞き、何かに気づいたギルバートは、大層驚いた表情でヒューゴに視線を送る。

そんなギルバートの姿を見たヒューゴは、笑顔で一度抑揚に頷いて見せた。

「まさかあのシャロンなのかっ!こんな…こんな美しい女性になっていたとは」

細い眼を更に細めながらギルバートはそう言うと、皺の入った顔を更に倍ほど増やしながら何度も頷き、シャロンを眺める。

シャロンは多少首を傾げながらギルバートの顔を見る。だがどれだけ考えても出会った記憶のない人物だった。

「大変申し訳ございません。私は以前にもギルバート様にお会いした事はございましたでしょうか?」

一度深く頭を下げた後、申し訳なさそうにギルバートに話すシャロン。だがギルバートは豪快に笑ってみせると、顔を横に振りながら答える。

「覚えてらっしゃらなくても仕方がない。随分昔の話だからのぉ…かれこれ15年も昔の話だ」

15年前。この言葉でシャロンは得心のいった表情を浮かべる。