風に揺蕩う物語

意気込んだ所で今日の主役は僕じゃないし。それにこれぐらい質素な軍服の方が、傍らに居てくれるであろうシャロンの美貌が際立つ。

生け花でも、水苔があるからこそ花が際立つのだから。

その後、シャロンの仕上がりに大満足をした僕は、仕立て屋や化粧師達に給金を支払い、当家でちょっとしたもてなしをしていると、予め用意していた馬車が到着する。

僕はシャロンの手を取り、そのまま戸惑いを見せるシャロンを馬車まで案内する。

「姫…どうかお先にお乗り下さい」

ヒューゴは頭を下げ、優雅にそうシャロンに言うと、流石にやり過ぎたのか、少しムッとした表情を見せる。

「ヒューゴ様。お戯れは大概にして下さい」

その言葉を受けたヒューゴは盛大に笑いだすと、そのまま馬車に乗り込み、今度はシャロンに手を差し伸べる。

「この方が見栄えが良いだろう…そうは思わぬかシャロン」

シャロンはその言葉に笑みを返すと、ヒューゴの手をそっと取り、お淑やかに微笑みながら一言…。

「左様でございますね。ヒューゴ様…」

だんだんと慣れてきたのか、シャロンはヒューゴの意のままに振舞う様になっていた。

そんなシャロンの姿は、どこからどう見ても貴族の令嬢そのものだった。



エストール城の城門は珍しく解放されていた。エストール宮殿の前にある噴水がある広場には、平素見られないほどに着飾った淑女や軍服を着た騎士達がおり、シャロンはヒューゴに連れられて馬車から下りると、感嘆の表情を浮かべて辺りを見回した。

「たくさんいらっしゃってるのですね」

「そうだな。今日はランディス国王も式典にお見えになるから、顔だけでも出しておきたいと考えておるのだろう」

ヒューゴはすでに表情を真剣なものにし、平素の彼ではなくなっていた。一応人の目もあるので、気持ちを切り替えたのかもしれない。