息継ぎのタイミングを間違えた父親は、言葉を詰まらせながらもヒューゴに聞いてくる。

「それはまだ何とも。ですが身ごもってまだ一月ほどしか経ってないようなので、激しい運動はお控えください。それとお腹を冷やしてもいけません。冷たい物を控え、体調不良になった時はいつでも病院にいらして下さい」

捲りあげられていた服を戻し、そう話したヒューゴは、最後に一言こう言葉を付け加えた。

「おめでとうございますレンミンさん。健やかな子供をお産み下さいませ」

歓喜に震える父親と、控え目にお腹を摩りながら微笑むレンミンに、ヒューゴは妊娠への賛美の言葉を2人に与えた。

「幸せそうで何よりだ。僕まで嬉しくなってきたよ」

さきほどの豪商の父親の喜ぶ姿が目に焼きついたヒューゴは、微笑みを携えながら傍らでヒューゴへの紅茶を差し出すシャロンに語りかける。

「そうですね。私もレンミン様のあのお淑やかな笑みはしばらく忘れそうにありません。どれだけ嬉しい報告だったかったのでしょうか…ヒューゴ様」

シャロンはヒューゴの隣に置いてある、背もたれの付いていない椅子に座ると、少し控え目にヒューゴに聞いた。

「明日の式典ではリオナス様が剣を振るわれるのですよね?」

「そうだね。リオナスがどこまで出来るのか実に楽しみだ。今はまだセヴィル殿には勝てないとは思うけど」

リオナスはまだ若いし、実戦をそれほど積んでいない。歴戦の騎士であるセヴィル将軍を前に、萎縮しないでどこまで自分の技量を示せるか。

明日の試合はそれを見るためのものだ。試合の勝ち負けはどうでもいい…。

「そうなのですか…どうか怪我だけはなされない様に願いたいです。以前のヒューゴ様の様な大怪我だけはしないでほしい」

以前のヒューゴと言えばヒクサクとの試技だ。試技で大怪我をしたヒューゴは、シャロンを大層驚かしてしまった過去がある。

あの時もシャロンは健気に僕の看病をしていた。

当時の事を思い出したのであろうシャロンの表情は相変わらず固い。武家としての格式を持てと言いつつ、怪我はして欲しくないと言うシャロン。

矛盾が生じる二つの言葉だが、人である以上気持ちに矛盾が生じるのはある程度仕方がない。