シャロンが屋敷に戻ったことにより、ヒューゴは普段の日常を取り戻した。

シャロンが一人屋敷に居るだけで、こうも違うものかと思い知らされる日々だ。そしてどれだけシャロンが身を粉にして働いてくれていたかを実感する。

病院業務は滞りなく進むし、食事は美味。使用人の戸惑いもなくなり、屋敷には優しい時間が絶え間なく続く。

精神が安定すると、不思議と体調も良くなる。ヒューゴの偏頭痛も収まり、ヒューゴはグレイス共和国の嫡男であるヒクサクの来賓に伴う式典に参加する事にした。

体調が良いのも理由の一つなのだが、もう一つの理由は、式典での催し物に興味が出たからだ。

エストール王国の騎士と、グレイス共和国の騎士の代表による試合をする事になったのだ。

エストール王国を代表するのが、セレスティアの近衛兵隊長であるリオナス。

そしてグレイス共和国を代表するのは、百鬼騎士と呼ばれ、他国に名が知れ渡っているセヴィル将軍だ。

セヴィル将軍の噂はヒューゴも知っていた。子供の身の丈以上の長さの太刀を振るい、暴れ牛を一刀の元に切って捨てる姿は、他国でも語り草になっている。

現在のリオナスが、このセヴィル将軍にどこまで通用するのか見てみたい。珍しく体が疼く感覚を感じながらヒューゴは内心楽しみにしていた。

式典があるのは明日の正午から。

ヒューゴは病院で、昔からシャオシール家に縁のある豪商のレンミンという娘の診察をしていた。どうやら商家の娘にしては珍しく、大恋愛の末に婚約に至ったようで、父親を連れ嫁ぐ前の検診を受けにきたのだ。

ヒューゴは一通り心音や触診を行った後、笑顔でレンミンに語りかける。

「どうやら体に異常はないようですね。それに…子供も身ごもってらっしゃいますようで」

最後のヒューゴの言葉に二人は、心底驚いた表情をしていた。なぜなら腹もまだ出ていないのに、どうしてその様な事が分かったのか。

だが父親はそんな事はどうでも言いとばかりに興奮した様子で聞いてきた。

「子供はっ男の子でしょうか!?」