風に揺蕩う物語

もう僕はシャロンを手放せそうにない。シャロンに屋敷を出ていくと言われても、どんな手を使ってでも引き留めるだろう。

「もちろんさ。僕からお願いする…シャロン。当家に戻ってきてくれ」

「はい…ヒューゴ様」

こうしてシャロンはシャオシール家の使用人として戻ってきた。

シャロンはすぐに服を着替えると、いつもの様子で屋敷内に姿を現した。

そしてここからが見ものだった…。

シャロンが居なくなってから雇った料理人は、僕とシャロンが会話をしている間に、夕食の準備を済ませていた。その料理を見たシャロンは、怪訝な様子を見せると、料理人に話しかける。

「味見をしてもよろしいですか？」

「どうぞシャロンさん。腕によりをかけて作らせて頂きました」

恰幅の良い中年の新しい料理人は、自信を顔に浮かべながらそう言った。シャロンは、ではと一言述べ、料理の味見をし始める。全ての料理に口を付けた後、シャロンははっきりと言い放った。

「これでは駄目ですね。私が新しく作り直します」

一言そう言うと、料理を他の使用人に下げさせる為に指示を出し始めた。

その様子を見た料理人は、慌てた様子でシャロンに詰め寄る。

「ちょっと待ってくれよ姉ちゃん。俺の料理の何が不満だって言うんだい！」

腕組みをし、納得できねぇとばかりに傲慢な態度を取る料理人に、シャロンは普段通りの無表情な顔で、冷静に語り出す。

「全てです。まずこの魚介スープは塩分がきつ過ぎます。それに白身魚の臭みが完全に抜け切れていません。塩で隠している様ですが、私には通用しません。それとこの牛肉のステーキですが、焼き方に問題があります。もう少し両面に焼き目がつくぐらい焼いて下さい。それとヒューゴ様はそれほど牛肉がお好きではありません。鳥のお肉が好物です」

中年料理人は、初めて会う若い使用人にコケにされたと憤慨している様子だ。