風に揺蕩う物語

リオナスの最後の言葉に、今日何度目になるか分からない驚きの表情を浮かべ、口元に手をやるシャロン。そしてリオナスはフーガに跨ると、最後にこう言葉を続けた。

「俺にとってシャロンは姉の様な存在だ。家族と言っても過言ではない」

リオナスはそう言うとフーガを走らせ、瞬く間にその場からいなくなる。平素見られないほど穏やかな笑顔を見せた後に…。

シャロンはその後、本日二度目になる涙を流した。今度の涙は、悲しみの涙ではなく、嬉しさによる涙で…。

「私は次の日から、リオナス様が用意して下さった護衛を連れ、各地を見て回ってきました。とはいえそう遠くまでは行けませんので、近くの町を三か所ほど見て回っただけですが…」

先ほど見えていた剣士は、リオナスが用意した者だったのか。

リオナス…お前に迷惑をかけたようだな。

本来ならヒューゴがしないといけない事なのだが、リオナスはヒューゴが何かに焦りを感じている事に気づいたのか、自ら行動を起こしていた。

「シャロン…最後だから。最後にもう一回だけ聞いて良いかい?」

「はい…」

シャロンの人生がかかっている。だからもう一回だけ聞きたい。

「本当に縁談はいいのかい?くどいかもかもしれないけ」

「私がお慕いしているのはヒューゴ様だけです」

何かをふっ切った様子のシャロンは、ヒューゴの言葉を遮りそう言うと、持っていた鞄を床に放し、ヒューゴの手を両手で掴む。

「私はヒューゴ様にお仕えするだけで…それだけで幸せなんです。それ以上はありません」

「シャロン…」

なんて僕は幸せ者なのだろうか。ここまで尽くしてくれる人が、この先現れる事などもうないのではないだろうか。

「もう一度…私にヒューゴ様の身の周りのお世話をさせて頂けますか?」