風に揺蕩う物語

「あの夜に何があったのだ…出来れば詳しく話を聞かせてほしい」

デザートを口に運んでいたシャロンは、リオナスの言葉にフォークを置き、少し悲しそうな表情を浮かべながら話しだした。

「私に縁談のお話がきていたそうです。ヒューゴ様はその縁談を私にお受けになった方が良いとおっしゃいになって…お暇をお与え下さいました」

たっぷりと時間を置いて最後の言葉を述べると、先ほどまで見せていた柔らかい表情が嘘のように視線を下げ瞳を閉じる。

「その話は兄上から聞いた。だがシャロン…兄上は酷く酔っていたのではないか?」

「仰せの通りです。ひどく酩酊しておられました」

「うむ…酔っていたのもあろうが、兄上にしてはいささか軽率な発言だな。だが俺も良い縁談の話は受けるべきだと思うぞ。シャロンが幸せになる為なら俺も兄上も喜んで協力する」

「そうですか…でも私は、婚約などしたいと思った事もないのです。ヒューゴ様やリオナス様にお仕え出来ればそれで満足なのです。なのに…」

シャロンは我慢がならないと言った様子で瞳を潤わせ始める。そんなシャロンの姿を見たリオナスは得心がいったようで、笑顔を浮かべた。

「やはりな。俺の思った通りのようだ…シャロン。お前は…」

その後二人は半刻ほど会話をすると、レストランを出る。そしてリオナスはいつ手配したのか高級な宿をシャロンに用意していた。

その宿に着いた後リオナスは、多少困惑しているシャロンに袋を手渡す。

シャロンはその袋の中身を確認すると、銀貨がたくさん詰まっており、驚きの表情と共にその袋をリオナスに返そうとした。

だがリオナスはそれを受け取る様な仕草を見せない。

「兄上が渡そうとしていた給金だ。気兼ねなく受け取ってくれ…それとシャロン。少しエストール王国の領地を巡ってみてはどうだ?護衛は俺が用意しておく」

「そんな…そこまでして頂くわけには」

今日のシャロンは珍しく困惑しっぱなしだった。ここまでシャロンに親切に接してくるリオナスも珍しいが…。

「そしてまた我がシャオシール家にまた戻ってきて欲しい。俺や兄上は屋敷で必ず待っているからな…シャロン・シャオシール」