風に揺蕩う物語

街道を無心で歩いていると、自分がお金を対して持ち合わせていない事に気づき、シャロンは少し悩んだ。

どこかで下働きをしてお金を稼ごうとも思ったが、ファルロースではシャオシール家で長年使用人をしていたシャロンの顔は結構有名で、シャオシール家に縁のある者に見つかるのは、シャオシール家の名に傷をつける行為に当たると考え、その考えをすぐに諦めた。

宿には泊まれないが、野宿と食費を節制をすればそれでもファルロースから徒歩で７日ほどの距離にあるチグルスの街に行けると考えたシャロンは、そのまま関所に向かう事にした。

広大なファルロースの街を約半日ほど費やして、シャロンは関所まで辿り着いた。

歩き詰めで足は悲鳴を上げていたのだが、ファルロースの街中で野宿をする訳にはいかなかったシャロンは、何としてもファルロースの外に出て、野宿出来る場所を確保する必要があった。

食事は１日ぐらいなら我慢出来る。幾分睡魔が襲う体を無視し、関所の門番に街の外に出る手続きをしていると、後ろから馬が嘶く声が聞こえてきた。

何気なしに振り向いた先に居たのがリオナスだった。

シャロンがいきなりのリオナスの出現に驚いていると、リオナスは愛馬であるフーガから降りると、シャロンの下に歩み寄る。

「随分探したぞシャロン。町を出るつもりだったのなら、俺に一言あっても良かったのではないか？」

普段見せない穏やかな表情でシャロンにそう言うと、騎士の敬礼をリオナスに向けている兵士を手で制しながら、兵に言葉をかけた。

「済まないがその手続きは破棄してくれ。今日は町の外に出ない」

シャロンはというと、驚いた言葉が出ない様子だ。よりにもよってリオナスが自分の為にここまで赴くとは考えてもいなかったのだ。

「さてとシャロン…少し俺と食事でもしながら話さないか。ここまでの距離を歩いてきたのだろう？足も悲鳴を上げていように」

素っ気ない態度が常なリオナスの穏やかな口調に、最初は戸惑ったシャロンだったが、すぐに首を振り断わりを入れる。