風に揺蕩う物語

「リオナスかい?多分王宮に居ると思うよ。グレイスランドから来る来賓関係の式典準備で忙しいと思うから」

リオナスがどうかしたのか?

ヒューゴがそんな事を考えていると、シャロンは深く一礼すると、その場を後にしようとする。

「ちょっと待ってシャロン。リオナスに用があるのなら使いを出すよ。一度屋敷に戻るように連絡をする」

それぐらいの権限は持ち合わせているヒューゴは、そう言うと使用人の一人に目配せをした。使用人の一人が心得たと言わんばかりに、その場を後にしようとしたのだが、シャロンが断わりを入れる。

「その必要はありません。私はもうお暇を出された身です…どうかお気になさらずに」

シャロンのその言葉に僕は、胸が酷く傷んだ。確かに事実なのだが、シャロンのこの時の表情が、ものすごく辛いと僕に訴えかけているようだったから。

「シャロン…一つ聞いても良いかい?」

この際だから聞いておきたい。シャロンははいと返事を返すと僕は聞きたかった事を聞く。

「どうしてすぐに屋敷を出て行ったんだい?僕はすぐに出て行けと言った覚えはないんだけど。それに給金だって払えていないし…」

「すぐに出たのは早い方が良いと私が思ったからです。給金は…リオナス様に頂きました」

「リオナスが?リオナスとどこかで会ったのかい?」

初耳だった。会ったのなら会ったと僕に連絡を入れてもいいだろうに。

「はい。ファルロースを出ようと思って関所に居た所でお会いしました」

シャロンはその当時の事を思い出しながら話してくれた。

シャロンはヒューゴに暇を出され、自室に戻った後、ショックの余りほんの少しだけ涙を流したそうだ。

シャロン曰く…。

そして涙が枯れた後、自分の私物を整理し、部屋の汚れを落して、書を認めた後朝日が出る前に屋敷を後にした。