宵の頃に自宅に戻ってきたヒューゴは、普段の彼には珍しく酷く暗い表情をしていた。

結局、騎士の詰め所には顔を出さずに帰宅したヒューゴは、シャロンとの会話もそこそこに、自室に籠り、来客用の酒を一人で煽っていた。

ヒューゴに飲酒癖はない。付き合いや宴の席で少し口にするぐらいで、普段の日常で酒を飲む事など滅多になかった。

そんな彼を酒に走らせたのはセレスティアの事だった。どうしてもセレスティアの笑顔が頭の中にチラつくのだ。それを紛らわす為に、酒に手を出したあたり、普段のヒューゴらしくない。

ヒューゴの只ならぬ様子をすぐに悟ったシャロンは、飲み過ぎにはお気を付け下さいとだけ言うと、ヒューゴを一人にさせていた。

そして今は暗闇が支配する真夜中の時間。

ヒューゴはかなりの量の酒瓶を開けていた。それこそだらしなく地面に座り込み、月明かりだけが室内を明るく照らす状態で、ぼんやりとしながら外の景色に視線を送る。

そんなヒューゴの部屋に向かう足音がヒューゴの耳に届く。そして足音が止むと、小さくドアをノックする音が聞こえてきた。

「ヒューゴ様…入ってもよろしいでしょうか?」

「いいよ…」

小さい声で返事を返したヒューゴ。呟くように返事を返した声がどうやらシャロンの耳に届いたようで、静かに入室してくる。そしてヒューゴの今の参上を見てシャロンにしては珍しく、大層驚いた表情を浮かべる。

シャロンは盆を携え、その上には野菜を中心に作られた体に優しい料理が載せられていた。おそらく夕食を食べないで酒だけをあおっているヒューゴの為に、消化の良い料理を作りなおしたに違いない。

薄暗い室内でシャロンは、部屋にあるテーブルに料理の盆を載せると、地面に座り込み、こちらを一瞥もしないヒューゴの傍で膝を付いた。

「まだ着替えていらっしゃらなかったんですか?」

ヒューゴの服装は帰ってきたときのままだった。ヒューゴは何も答えない…。

「お食事をお持ちしました。少しでも良いので、お食べください。何も食べなければお体に触ります…」

「うん…」