風に揺蕩う物語

そんな近衛兵を見たレオナは、何でもありませんと説明すると、自分も一緒に衛生兵と部屋の外に出ていく。

そんな中、ヒューゴとセレスティアは、レオナ達の様子に気づく事なく静かに向かい合う。真剣な目つきで向かい合う二人。セレスティアの眼には薄らと涙が見えている。

「ティア。僕の病気は、多分過度の老化だ」

ヒューゴはもう嘘は通らないと考えたのか、本当の事を話し始めた。

「体は筋肉や体力が落ち、骨が細くなっていった。体はめまいや息切れが起き、頻繁に微熱が出るようになっている…その症状から考えられるのは、老化以外の何物でもない。変な発疹や腫瘍がある訳でもないしな」

ここまで話すとヒューゴは言葉を止めた。そしてヒューゴは、言葉に出すのを少しためらった後、意を決してはっきり言った。

「僕の命はもう長くない。おそらく5年ももたないだろう」

大きく心臓が高鳴った。

僕の目の前に居るのは、女神なのだろうか。

僕の為に涙を流すこの女性は…。

ヒューゴの話を最後まで聞くと、セレスティアは目から大粒の涙を流した。時折嗚咽を漏らしながらも泣くのを止められないでいる。

「いや…そんなのいや。死なないでよ」

子供の様な事を言う幼馴染に、ヒューゴは笑ってみせた。

「もちろんまだ死なない。こんな泣きじゃくる子供を残してはね」

「誰が子供よっ!」

こうして笑っていられるのもセレスティアのおかげだ。僕だって若くして死ぬのは辛い。

それも騎士として死ぬのではなく、病気で死ぬのだから、少し情けなくもある。

姫としての優雅なふるまいを忘れたセレスティアは、前のめりになりながら僕の顔を凝視してくる。